泣ける映画「フラガール(HULA GIRL)」

監督:李相日
日本/2006年/120分

現代を有利に生きる「シフト」を厳しくも暖かいやさしさで包んで描く、二極分化の両サイドにマッチさせる題材選びがあっぱれな一作。海外ヒットも間違いなし。影の主役「シフトする吉本紀夫」の胸中を想像せよ。

ストーリー(概要)
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昭和40年。
福島県いわき市の常盤炭鉱も、他の炭鉱の例にもれず閉山へ向けて加速していた。石炭から石油へのエネルギー革命が押し進んできたためだ。

そこで炭鉱会社は豊富な温泉資源を有効利用しようと、レジャー施設・常磐ハワイアンセンター建設の構想を打ち立てる。

炭鉱町の娘・早苗は自分の道を切り開くためにダンサー募集に幼馴染の紀美子を誘って応募する。

都会から呼び寄せられたダンサー教師・平山まどかのもと、フラガールになるべく数々の困難を乗り越えて練習し、常磐ハワイアンセンターオープン初日を迎える。


主な登場人物の紹介
―――――――――――――――――――――
▽平山まどか
SKD(松竹歌劇団)出身のダンサー。炭鉱の娘にフラを教える。

△谷川洋二郎
炭鉱夫。谷川家長男。紀美子の兄。

▽谷川紀美子
フラガールのリーダー。谷川家の長女。洋二郎の妹。

▽熊野小百合
フラガール。炭鉱夫の娘。

△吉本紀夫
元炭鉱夫。ハワイアンセンター計画の担当部長。

▽谷川千代
炭鉱で働く。洋二郎と紀美子の母親。婦人会会長。

▽早苗
谷川紀美子の幼馴染。紀美子をフラガールになるよう誘う。


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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現代を有利に生きる「シフト」を厳しくも暖かいやさしさで包んで描く、二極分化の両サイドにマッチさせる題材選びがあっぱれな一作。海外ヒットも間違いなし。影の主役「シフトする吉本紀夫」の胸中を想像せよ。

■ 一山一家と谷川千代

一山一家。炭鉱会社の施設の壁にかかった額縁に入った言葉である。父親の代からも含めて炭鉱で働く者にとっては、炭鉱がすべてだ。

炭鉱の仕事は想像をはるかにしのぐほどキツイ仕事だ。

作業服だけでなく顔を真っ黒にした炭鉱夫たちがトロッコ列車で移動する様子や、女性の谷川千代がシャベルで石炭や砂利などを仕分けするような作業の様子は、炭鉱の仕事がいかにたいへんかを垣間見させてくれる。

炭鉱の落盤事故で夫を亡くした谷川千代。婦人会会長であり炭鉱で働く彼女にとって炭鉱は人生のすべてであり、女は夫のために歯をくいしばってツライ仕事をして生きる、を信条としている。

といよりもそういった生き方しか知らず、そういった生き方しかできないと思っている。

そのため、腰を振ってヘラヘラ笑うフラをする娘の紀美子を許すことができないのだ。

しかし、やがて彼女は気づく。

女が生きるとは、歯をくいしばって辛いことをするだけでなくてもいい。人に笑顔を与える仕事をするという生き方もあってもいいのではないか――と。


■ シフトのむずかしさ

映画は感情を売る商売ともいえる。

感情ほど人を支配しているものもそうそうない。

頭ではわかっていても、気持ちがそうもいかない。という経験を誰しも持っているだろう。

炭鉱会社はハワイアンセンター建設計画を発動。それもまだ炭鉱が操業しているときからだ。

会社はだれものものか。株主のものである。そのため利益を上げる必要がある。だから炭鉱が閉山の危機にあるならば、ほかに利益を上げられるものをはじめなけらばならない。当然である。

だからといってこれが冷淡かというとそうではない。

私は以前、常磐ハワイアンセンターオープンまでを紹介するテレビ番組を観た。それによると会社も炭鉱で働く者たちが食べていけるようにと、ハワイアンセンターの従業員を炭鉱町の人間を使うよう努力したとあった。

会社は株主と炭鉱で働く者のことを考えてすでにシフトしたのである。

なかなかシフトできないのは人間のほうである。なぜなら「感情」があるからだ。

何十年も続いてきた事が無くなるとイメージするのは難しい。まして生活のすべてである炭鉱が閉山するというのは考えたくもないことだ。

いままでが大変であればあるほどその場所への思い入れは強い。炭鉱で命を落とした身内がいればなおさらである。

観客も人間なので(あたりまえか)、こうした炭鉱の旧派閥の気持ちがよくわかる。

かつて終身雇用制が機能していた過ぎ去りし昔を経験している者にとっては、会社こそが世界のすべてであり、会社員でさえあれば何も心配はない、と思って生きてきたのだから。

そういった古き時代を知っている者は炭鉱町の旧派閥の気持ちが痛いほどわかる。その一方で、炭鉱が閉山になったら食べていくことができないこともよくわかっている(つもり)。

食べていくために、生きていくために、ハワイアンセンターで働きはじめた新派閥の人間の気持ちも痛いほどわかる。


■ 影の主役 吉本紀夫

ここに、炭鉱町で生きていくためのシフトをだれよりもはやく成し遂げた男がいる。ハワイアンセンターの部長・吉本紀夫だ。

旧派閥の炭鉱夫たちからすれば、吉本紀夫は裏切り者の象徴である。

だが吉本紀夫だって元炭鉱夫の誇りがある。それはアロハシャツを着ても、その上から作業着を羽織ることからもわかる。

炭鉱夫の気持ちも持ちつつも、ハワイアンセンター成功たのめに尽力する、時代に対応できる(シフト)能力を持った象徴的な人物が吉本紀夫なのだ。

平山まどかや谷川紀美子に注目が集まりがちだが、影の主役は吉本紀夫なのである。


■ 両サイドにマッチする稀有な作品

最近の「日本映画マップ」に顕著なのは二極分化である。

(A)なにかを忘れさせるもの(例:昭和30年代を舞台に懐かしさを売る)

(B)未来へのモデルを提示させるもの(予感含)

どちらが現代日本でヒットしやすいかといえば、いうまでもなく(A)だ。

大雑把にいうと(A)の層は炭鉱の旧派閥で、(B)は炭鉱の新派閥である。

時代の変化のなかで、感情のためにシフトできないでいる(A)の気持ちも汲みつつ、裏切り者と言われながらもシフトしたフラガールをはじめとするハワイアンセンター従業員たち(B)をも描いた今作は、二極分化における双方の層をも観客に取り込めるたいへんめずらしい作品である。

こんな作品も、作ろうと思って行動すればできるんだな。と感心してしまった次第である。


■ 観客は平山まどかと共に炭鉱町へ

舞台は福島県のいわき市。
ほとんどの人(観客)にとってはあまり馴染みのがない土地である。まして昭和40年。ハワイアンセンターができるよりも以前は、常盤炭鉱に行く人は、炭鉱関係者がほとんどだった。

そんな映画の舞台に観客を誘導するにはどうしたらいいか?

観客と同じ目線の登場人物を配置すればいいのだ。それがSKD(松竹歌劇団)出身のダンサー・平山まどかである。

この手法は「グランドホテル型」と呼ばれる。これは場所を限定し、主人公があるその場所にやってくる型であり、一般には群像劇の手法とされている。

群像劇としては今一歩踏み込んでキャラクターたちを描ききれてはいないが、観客をいわき市へといざなう役割はじゅうぶんに果たしている。

例えば映画「バイオハザード(BIOHAZARD:RESIDENT EVIL)」での主人公アリスの記憶喪失という仕掛けを用いることによって、観客と主人公が同時進行で情報を得ていくことができたことを思い出してほしい。

こうした主人公と同じ情報量の登場人物(主役が望ましい)を配置することで「バイオハザード(BIOHAZARD:RESIDENT EVIL)」においてはゲームをプレイしたこがない人でもスムーズに作品世界に入って来れるようにしているのである。

「フラガール」において、これと同じ効用を持つキャラクターが平山まどかである。

観客は平山まどかと同じ「よそ者」として炭鉱の町へやってくるが、フラ練習生と共に困難を乗り越えていくうちに徐々に炭鉱という世界を理解していき、そこで起こる出来事をまるでわが事のように感じることができるようになっているのだ。


■ 方言

舞台は福島県のいわき市なので方言がある。登場人物たちも皆(平山まどか他一部を除く)方言を使う。

「フラガール」は日本映画なので、日本の映画館では字幕が付かない。ということは方言に慣れないとはじめのうちはうまくセリフを聞き取れないのだ。

これがとてもいい。

ハリウッド映画に慣れてしまうと、英語のほかに字幕があるのでつい視覚に頼りがちになる。

そこへきて「フラガール」の多くの登場人物が話す言葉は、日本語を話す人にとっても日本語なのに聞き取りにくい。

でも注意深く聞き取ろうとすればだいたいの意味はわかる。それでも早口のセリフはなに言ってるかわからない。

これがいいのだ。

実際、都会から来た平山まどかとハワイアンセンターの吉本部長との飲み屋のシーンで、吉本部長の早口の方言のために何を言っているのかわからないのに、平山まどかはそこに吉本部長(影の主役)の熱い思いを感じ取ることができた様子が描かれている。

方言はダサい。と思うかもしれないが、そんなことはない。もし福島の人たちが「○○じゃん」や「○○でんねん」なんてしゃべっていたらどうだろうか?

その土地で暮らす人々の生活様式や考えや感情をよく表すものは方言である。

ハリウッドには、日本式でいうところの「方言担当者」がいるという。アメリカ合衆国は広く、多種多様な民族の集まりなので、○○系アメリカ人といった設定の場合に、どのような言葉、発音、アクセントで話すのかをレクチャーする専門職があるという。(そのわりには外国を舞台にした映画ではだれもかれも英語を話すとんでも作品を量産しているが……)

「フラガール」も、はじめは方言でわかりづらい。

しかしこれはおそらくわざとそうしているのだろう。観客を平山まどかと同じ状況にするためにわざと方言を全面に出し、聞き取る努力を促すことによって作品世界へ観客のほうから入ってくるよう仕向けていると同時に、炭鉱町とそこで生きる人々の雰囲気を醸し出す効果も狙っているのだと思う。

しっかりと基本がなっているのである。


■ ひとこと

常磐ハワイアンセンターは現在「スパリゾートハワイアンズ」という名称になっている。

「フラガール」は米アカデミー外国語映画賞の日本代表になった。

物語構築的にみてもたいへんよくできている。どのあたりが? ということを書くと長くなるので今回は見送るが、ハリウッドでのリメイク話がきているらしいから、広くヒットを狙える題材とストーリー構築なのは観てもらえばだれでもわかるだろう。

人気急上昇成長株で話題の蒼井優さんを、ほぼはじめてしっかり観たが、彼女もよい役者さんである。観るたびに表情や雰囲気を変えられる幅の広さがある。

私は「フラガール」を観て何度も泣いた。

いかにもお涙頂戴モノと感じればそれまでだが、こういった泣かせ方ならガンガンやってもいい。

実話を元にしていうるだけあって、涙の演出を多少過剰にしてもいやらしさがない。

特に平山まどかが炭鉱町を離れようと夜の駅に止った電車に乗り込んだシーンで、フラガールたちが彼女を引きとめようとプラットホームに駆け込んできたところが泣ける。

フラガールたちはプラットホームに並んで、電車の中の平山まどかに向かって教えてもらったフラを踊り、メッセージを手話で伝えるという教えをフラを踊ってみせるところがグッとくる。

ほかにもお涙頂戴演出は満載だが、いやらしさをほとんど感じないので普段あまり泣かない人でもけっこう泣けるんじゃないだろうか。

いやはや、いい作品を観せていただきました。ありがとう☆


俳優    ◎
ファミリー ◎
デート   ◎
フラっと  ◎
脚本勉強  ◎
演出    ○
笑い    △
リアル   ◎
人間ドラマ ◎
社会    ◎

▼スパリゾートハワイアンズ
posted by タカ at 21:31 | Comment(0) | TrackBack(0) | 泣ける映画(実話系)

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