泣ける映画「タイヨウのうた」

監督:小泉徳宏
日本/2005年/119分

すれ違うことさえ無いはずだった出会いが二人の世界を広げる、女性目線の恋愛環境を持ったYUIプロモーションのサラっと系音楽青春物語。音楽界のポスト浜崎か? 売ろうという意気込みと、売れようというYUIの根性と意志を魅せてくれる。恋の吊り橋理論の実践も見どころ。二人の純愛というより、薫をとりまく家族・友人・恋人の「愛の輪」といったほうがいい。

ストーリー(概要)
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夜しか活動できない難病の少女が意中の彼と出会い、家族や友人の愛に囲まれて精一杯生きる。


主な登場人物の紹介
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▽雨音薫
 少女。色素性乾皮症(XP)。ギターで歌う。

△孝治
 男子高校生。サーファー。

▽美咲
 女子高校生。薫の親友。


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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すれ違うことさえ無いはずだった出会いが二人の世界を広げる、女性目線の恋愛環境を持ったYUIプロモーションのサラっと系音楽青春物語。音楽界のポスト浜崎か? 売ろうという意気込みと、売れようというYUIの根性と意志を魅せてくれる。恋の吊り橋理論の実践も見どころ。二人の純愛というより、薫をとりまく家族・友人・恋人の「愛の輪」といったほうがいい。

■ 予備知識

主人公・薫は色素性乾皮症(XP)です。これは紫外線によって傷ついたDNAの修復機能が著しく弱いという難病で、太陽が出ている日中は外出することができません。活動時間帯は夜に限られます。


■ 恋の吊り橋理論を実践!?

幸治クンは薫ちゃんのどこに惚れたのでしょう。

幸治クンにとって、薫ちゃんとの出会いはドキドキです。といっても恋心のドキドキではなく、身の危険を感じて心臓がドキドキしたことでしょう。

なぜなら、とある夜に歩いて駅から住宅街を通って踏み切りにさしかかった幸治クンは突然背後から何者かに突き飛ばされるからです。線路に倒れた幸治クンは、見ず知らずの女の子に唐突に自己紹介されます。

幸治クンにとってみれば、はじめはその少女が何を言っているのかわからなかったことでしょう。こっちへ近づいてきながら「彼氏はいません」と繰り返す見ず知らずの少女に、

もしかしてストーカー? 
 ↓
逆恨み 
 ↓
線路に突き飛ばされて 
 ↓
江ノ電に轢かれる? 

という図式が一瞬で頭に浮かんだかもしれませんね。

そんなドッキリ系の危険を感じるドキドキとは、恋愛における現象を心理学で説明するところのいわゆる「恋の吊り橋理論」です。

これはカナダの心理学者ダットンとアロンによって1974年に発表された「生理・認知説の吊り橋実験」によって実証されたとする学説で、人が恋愛を認識するのは生理的な興奮によるというもの。

揺れる吊り橋を一緒に渡った男女が、揺れによる緊張感を共有することで恋愛感情に発展する(揺れてこわい、というドキドキを異性への恋愛ドキドキと混同する)場合があるというものです。

こうして身の危険のドキドキを恋のドキドキと混同した幸治クンが、後日の夜、原チャリに乗っていつも利用するバスの停留所にさしかかったときのことです。ベンチに自分を突き飛ばした少女を見つけたのです。思わず原チャリのブレーキをかけてしまうのでした。

それは、あの踏み切りの夜のドキドキ感が何だったのかを確かめたいという思いから相手へ興味を持ったためです。
ここまでは、恋の吊り橋理論作戦はひとまず成功したといっていいでしょう。


■ 歌に惚れた?

知らないところで女を惚れさせていたなんておれって罪な男。――と幸治くんが思ったかどうかはわかりませんが、それが若くてかわいい娘ならまんざらでもないのが男というもの。

しかもそんな可愛い子が積極的かつストレートにアプローチしてくるなんて、恋の駆け引きを楽しむなんて輩が多いなかでは、昨今ではなかなかみかけない斬新さを感じたのかもしれません。

薫ちゃんが路上ライブをやっているということを知った幸治クンは夏休みになったら歌を聴きにいくと約束します。

そして路上で歌う薫ちゃんを観客の最前列で見て聴いた幸治クンは感動します。

歌という才能に感動した高揚感のまま、海辺で薫ちゃんに付き合ってほしいと告白します。

この流れに少しだけ「?」が浮かぶとすればこんななんじです。

つまり、吊り橋理論でのドキドキを恋のドキドキと混同(→興味が湧いて会う →歌の才能に感動 →恋と混同?)というかんじになります。

これが、幸治くんが電車に轢かれずに(終電後だったのかな)なぜ薫ちゃんには惹かれたのかがはっきりしない作りとなっている要因です。

でも、それでもいいんです。なぜなら「タイヨウのうた」は女性目線の恋愛モノだからです。


■ 女性側に立った恋愛環境

湘南・鎌倉。サーフィン。恋愛。

これらのキーワードを使った作品では他に「キャッチ・ア・ウェーブ」という作品があります。これは現役男子高校生が書いた小説を映画化したもので、いわゆる男性目線の純愛青春物語です。

「キャッチ ア ウェーブ(CATCH A WAVE)」作品レビュー

一方「タイヨウのうた」は女性目線の純愛青春物語です。

いつの時代も自分だけの白馬の王子様が現われることを願う女性はいるもの。そんな白馬の王子様に象徴される理想の異性は、けっして毒を吐きません。

「アメリ」で主人公の女性・アメリが思いを寄せる男性がどんな人だったかを思い出してみてください。また「キャッチ・ア・ウェーブ」で主人公の少年が思いを寄せる女性・ジュリア(加藤ローサが演じる)がどんな人だったか思い出してください。

どちらも絵に描いたような、こんな人がいたらいいなという理想(妄想)で作り上げられたキャラクターです。

男性目線の理想で出来たキャラクターが「キャッチ・ア・ウェーブ」のヒロイン・ジュリア(加藤ローサ)で、女性目線の理想で出来たキャラクターが「タイヨウのうた」の幸治くんなのです。


■ 幸治くんの夢

幸治くんはサーファーですが、けっして波乗りが上手とはいえません。自分が好きで打ち込めるものがまだ見つからない彼は、同年代の薫ちゃんがすでに自分の才能(歌)を活用することで他人と関わっている姿を横浜の広場の路上ライブの様子を間近から見ることで実感・感動します。

そして薫ちゃんが難病にあるということを知って、オリジナルCDの制作資金を調達するためにサーフボードを売って、肉体労働のアルバイトをはじめます。

これは愛する人のためになにかをしてあげたい思いからというよりも、自分が感動したもの、いいと感じたものを広めるという「やっとみつけた夢」を叶えるための行動の表れのように見えます。

もちろん、お約束の踏み切りでの告白シーンとキスシーンはあるのですが、ふたりの恋愛が盛り上がって命のかぎり愛し合ったことを想像させるようなシーンはほとんどありません。

ということで、薫ちゃんと幸治くんの恋愛物語というのではなく、薫ちゃんをとりまく家族・友人・恋人の「愛の輪」の物語といったほうがいいでしょう。


■ 世界を広げる

昼は活動して夜は寝るもの。それがまっとうな生き方だという人もいます。

でも、誰かが夜に働いてくれているからこそ、昼に安心して働ける人がいるのです。

1日という時間の流れの中には太陽と月の両方があります。

さて薫ちゃんは4時〜5時ぐらいに寝ます。幸治くんは4時に起きて海にサーフィンに行きます。

すれ違いです。いえ、すれ違いさえもないのです。なぜなら、薫ちゃんは寝る前のわずかな時間に自宅の部屋の窓から、名前も知らない意中の彼をそっと見ることしかできなかったのですから。

そんな、普通だったらすれ違うことさえ無い二人の出会いが、お互いの世界を広げるのです。


■ 言葉の力を信じる、セルフプロデューサー・YUI

薫ちゃん役のYUIさんはシンガーソングライターです。中学生から詩を書きはじめ、16歳でギターをもって上京しました。

Sony Musicのオーディションで注目され、デビュー曲が月9ドラマ「不機嫌なジーン」で主題歌となって知名度が上がり、セカンドシングルの「Tomorrow'sway」は映画『HINOKIOヒノキオ』のために書き下ろしたということで、新人としては異例の活躍をしてきました。

「タイヨウのうた」のなかでもそうですが、あぐらをかいてギターをかき鳴らして歌うという自分のスタイルをSonyMusicのオーディションのときに披露しています。

若くかわいいだけでは他に埋もれてしまう。若くてかわいくて歌がうまくても、デビューはできるかもしれないけどすぐに埋もれてしまう。

そこで言葉を音楽にのせて、それも自分のスタイル(あぐらにギター)を確立して上京するあたりに、強い意志を感じます。

逆にいえばそういった強い意志が歌とスタイルになって表れ、ある種のオーラとなって聴く者を魅了するのです。

浜崎あゆみさんが若者の心情を日本語のみで綴った歌詞でデビューし、多くの共感を得ました。手法としては演歌ですが、演歌だと感じさせない売り方はとても上手ですね。

その浜崎あゆみさんもそろそろ二十代後半。音楽業界は新たなスターを誕生させようと(誕生を待っているのではなく)必死にその原石を探しています。

そこへ16歳で福岡からギター1本で上京という、まるでNANAのナナ(ナナは二十歳で北国から上京)みたいなスター誕生のお約束話の基礎をしっかりおさえて自分のスタイル(あぐらにギター)も持って現われたYUI。これこそついに見つけた逸材だということになったのではないでしょうか。

おそらく、そういったことをすべてわかっていて、いかに自分を売り込むかを考え抜いて行動したYUIは、いうなればセルフプロデュースを中学の頃にはすでにはじめていたということになります。

得意なことや打ち込めることをみつけるのは早ければ早いほどいい。さらにそれを有利に展開するための戦略もしっかりと練ることが必要です。というようなことをYUIさんは教えてくれます。


■ ヒット量産ROBOTと二十代小泉監督

監督の小泉徳宏さんは二十代。映画好きで短編作品で腕を磨いて、数々のヒット作で有名な制作会社ROBOT所属です。

この制作会社の有名作といえば『踊る大捜査線』シリーズに『海猿 ウミザル』シリーズに『ALWAYS 三丁目の夕日』。「売れるものづくり』に特化した環境で培った小泉監督は日韓難病純愛ブームという波に流されることなくふわっといい波だけを選んで乗ってみせてくれます。

また、青春モノは出演者も作り手もワカモノに、という宣伝にもなる人選に、ヒット量産会社としての巧みさがみえます。


■ ひとこと

薫ちゃんの両親役には、麻木久仁子さんと岸谷五郎さん。特に岸谷五郎さんがいいですね。キュッとスパイスを利かせて作品に緩急を付けています。これができるのは役者の技量でしょう。

シンガーソングライターYUIさんのプロモーション作品という性格があるためでしょう、あえて内容に凝らずに直球勝負にしています。

物語内容で勝負するなら、例えば幸治くんには既に彼女がいて、実はそれは薫ちゃんの親友・美咲ちゃんだった。という設定があってもおもしろいですがいちおう「純愛」というキーワードとYUIさんのプロモーションを軸としているのでここは「直球」で正解でしょう。

薫ちゃんが高台に建つ自宅の2階の部屋から、幸治くんがいつもやってくるバス停留所をみています。でも、停留所の標識がちょうど邪魔になって幸治くんが隠れてしまいます。そこで薫ちゃんが夜中のうちにその停留所の標識をえっこらせと横に1、2メートルほど移動させます。

このシーンは言葉でなく、行動で薫ちゃんの気持ちを表すとても上手な良いシーンですね。

また、夜に鎌倉駅前の広場で歌う薫ちゃんが、駅から歩いていく幸治くんをみつけると歌を止めて後を追い、踏切で突然自己紹介するシーンがあります。

先にも書いたように幸治くんにとっては突然の出来事でびっくりですが、病気のために学校に通えずに、小学校以来男の子としゃべっていない薫ちゃんにとって、次はないかもしれない千載一遇のチャンスなのです。普通だったらストーカーと思われて避けられてしまうであろうことまで考えが及ばない純粋さを表現した、リアルちっくなシーンですね。

でも、もしかしたら薫ちゃんは「恋の吊り橋理論」をチャンスがあれば実践しようと狙っていたのかもしれないとチョットだけ思わせるところが、シンガーソングライターYUIのセルフプロデュース力とシンクロさせているのかも……って深読みをしすぎかな。

純愛物語として観るよりも、シンガーソングライターYUIあっての、歌があっての作品だと認識して観るとよいですよ。

韓流やセカチュー純愛ブームにどこかしらいやらしさを感じて疎遠だった方でも「タイヨウのうた」はヘーキだと思います。

クドくない、サラッと系の音楽恋愛青春物語といったかんじで好感が持てました。

なにはともあれ歌がいいのでおすすめです。


俳優ファン  ◎
ファミリー  ○
デート    ◎
フラっと   ◎
脚本勉強  △
笑い     −
リアル    ○
謎解き    −
人間ドラマ  ○
社会     −
アクション  −
音楽・歌   ◎ 


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posted by タカ at 21:40 | Comment(0) | TrackBack(0) | 泣ける映画(青春)

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